FTM父になる② 前田さん

様々な家庭・家族の在り方、そして子作り・子育てのカタチがある現代。
実際にどのような家族・家庭・子作り・子育てがあるのか?を紹介していく【FTM父になる。】シリーズ第二弾のインタビューは前田さんです。

トランスジェンダー子作りインタビュー vol.2 前田さんの場合

■現在の家族構成を教えてください

奥さんと11月出産予定の女の子がお腹にいます。

■お子様を持つということで奥様と話し合われたかと思いますが、どのような話し合いをされ、どういった選択をされましたか?

奥さんと義母が子供を欲しがっており、自分自身も戸籍も変え、望むなら出来る状況になったため、結婚して一年頃前向きに考えようと色々調べて病院に話を聞きに行ったり御社新宿事務所に相談に行ったりと行動に移しました。その際、最初から身内【兄】に協力してもらい妊活するつもりでした。

実の兄へ精子提供の依頼

■血のつながらない第三者から精子提供を受けられる方もいらっしゃいますが、お兄様から提供を受けようと思った理由を教えてください。

奥さんと妊活についてまじめに話している際も、お互いに兄の選択肢しかなく、僕自身もやはり少しでも顔は似ていたいと思いましたし、奥さんも全く知らない第三者よりも兄が協力してくれるなら積極的に妊活やりたいと一致しました。

■お兄様へお話された際、どういった反応をされましたか?

まずは兄よりも、兄の奥さんに相談しました。兄の奥さんは僕のことを理解し、普通に接してくれていましたが、いざ、このような事になると、いい気はしないだろう…複雑だろうな…と、思い、まず奥さんに協力してもらえないかどうかを、先に聞きました。

不安はありましたが、とても理解してくれており、結婚式に呼んだ際も義家族に孫を孫をと言われておりましたので、「プレッシャーだね。笑」などと話をしていましたし、そうなるだろうな。と予想もしていたそうで、「うちの旦那(兄)のでよければ。笑」と協力していただけました。

■お兄様へお話をされる前、Mさんの中で葛藤などはありましたか?

葛藤は全くありませんでした。前にも述べたように少しでも顔は似ていたかったし、第3者の精子よりも抵抗感は全くなかったです。

妊娠に至るまでの道程

■実際に妊娠されるまでの過程を教えてください。

まずは、精子提供者探しから始まります。
精子提供者が身内の場合と第三者精子バンクからの場合とではだいぶ流れも手間、時間も変わってきます。

身内の場合は割とスムーズです。
提供してくれる身内と話がまとまっていれば日取りを決めて、その人を連れてA病院の診察にかかり精子採取することになります。
ただ、その前に、事前診察として、奥さんの卵巣、子宮に問題はないかの受診が必要でした。(初診料含め1万円前後でした)
卵巣・子宮に問題がなければ後日、精子採取のため身内が受診します。
この時、身内にはなんの検査もありませんでした。採取のみです。(この時、お金は必要ありませんでした)

採取された元気な精子のみ、分離器にかけて冷凍するため、数日かかりましたが、そこでもまた問題がなければ、A病院より「●回分の冷凍ができましたので、タイミングを見てまた病院に来てください。その際にまとめて支払いをお願いします。」と言われました。

タイミングを見てということでしたが、A病院は遠方で、交通費や休みの兼ね合いもあり、普段ホルモン注射でお世話になっている最寄りのB病院で(婦人科もある病院だったので)妊活に大事な奥さんの卵巣チェックを受けられるように配慮していただきました。

具体的に、卵巣が18ミリになるまで3回ほど通院しました。(その度に3千円ほどかかりました)
そして18ミリになったと同時に「明日、A病院に行ってください!チャンスは明日です!」と、言われる感じで、A病院にて人工授精を試みました。(このときに前回の分とあわせて3万円前後の支払いをしました)

我々の場合、一回のトライで成功しましたが、次の生理が来てしまった場合にはリセットとなり、卵巣18ミリチェックからの再スタートになります。

期間的なことをまとめると、我々の場合は「よし、やろう」と決まって病院に通い始めてから1、2ヶ月で妊娠まで至りましたが、個人差はあるのだと思います。

■お子様には生まれてきた経緯などはお話になる予定ですか?

義家族にはカミングアウトせずに結婚しましたので、子供にも話す予定は全くありません。普通の家族となんら変わらず育てていこうと思っていますが、もし、仮に子供も同じようにセクシャルマイノリティーで悩んでいたとしたら、「俺もそうだったんだよ。心配することないよ。」と、当事者として相談にのり、戸籍変更など望んでいれば協力してあげようと思っています。

■今回の選択をされる中で、困ったこと、苦労したことがあれば教えてください。

やはり、お金、手間、時間ですね。
普通の家庭ならば、自然とできる妊活ですが、我々の場合、病院探しから始まり、卵巣チェックのための通院、その度の診察料。
そして奥さんの色々な検査、兄の精子採取の際の通院、妊娠するまでにたくさんの手間や時間、お金がかかりました。
しかし、そうやって夫婦一緒に様々なことを乗り越え妊娠したことで、より一層生まれてくる子供を大切にしようと思いましたし、喜びもより感じられたかと思います。

Message

■これから子供を迎え入れられる予定の方、また考え中の方へメッセージをお願いします。

世の中が少しずつ変わっていき、妊娠はより、かけ離れたものではなくなりました。
しかしながら生まれてくる子のためにもしっかりと責任もって養えるような環境作りはもちろん愛情もたっぷりそそいでいきましょう。

全ての人が幸せに豊かになっていけるよう望みます。